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大阪高等裁判所 昭和52年(く)76号 決定

少年 H・J(昭三五・二・八生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用するが、要するに、共犯の成人らは執行猶予になるなどして社会に出ているのに、自らのしてきたことについては反省もし、これからは真面目に仕事もしようと思つている少年だけが、何故一年も少年院にいなければならないのか納得ができない、少年院に収容されるのは仕方がないとしても、せめて短期少年院に送致して貰いたい、というのであり、処分の著しい不当を主張するものである。

そこで、原決定の処分の当否について検討してみるのに、少年調査記録を含む一件記録によれば、少年は、中学二年生のときに自動車盗、万引で二回にわたり警察官に補導されたのを初めとし、そのころから家出、浮浪を繰り返し、保護者である両親の監護に従わず、中学三年生のときには八ヶ月余り大阪府立○○学院(教護院)に収容され、この間窃盗、恐喝等の非行で大阪家庭裁判所において不処分決定がなされ、右○○学院を退院したのち、一時職業訓練所に入つたが喧嘩をしてやめ、またもや家出をして友人方を泊り歩くうち、同人らと傷害事件を起し、再び同裁判所で保護的措置がとられた上で不処分決定がなされたものの、その後も素行改まらず、前記○○学院での友人らと埼玉県方面に遊びに行き、同人らと原決定の「非行事実」2の車上狙いあるいは自動車盗の窃盗六件、同3の窃盗未遂一件の各非行に及び、一旦は帰宅して店員として働いていたが長続きせず、間もなくパチンコ等で徒遊しながら、友人の家などを転々と泊り歩くようになり、前記○○学院で知合つたA(当時二一歳)らと暴力団○○組系○○○○会の若頭補佐のもとにも出入りし、右Aらと、同「非行事実」1の自動車盗の非行に及び、逮捕されるに至り、右各非行事実について、原裁判所において併合審判の結果、中等少年院送致の保護処分決定がなされ、同裁判所の処遇勧告書にも基づき、昭和五二年七月一九日から職業訓練を主体とする浪速少年院に収容されていることが認められる。少年は、これまでにも一度ならず反省の機会を与えられながら、これに応えようとせず、安易に非行を繰り返してきたもので、非行性の程度はさらに深化しつつあるようにうかがわれ、性格的には、自己中心的で協調性に乏しい上、過敏性が強く、気分や行動に安定を欠きがちで衝動的傾向があるなど、偏りが大きく、生育歴、家庭環境等についてみると、幼児期祖父母に甘やかされて育てられ、両親においても、種々心を砕いてきたことはうかがわれるものの、十分なしつけをなし得ず、少年に対する指導・監督に自信を失いがちで、保護能力は十分とはいえない。また、前記のとおり、少年はこれまで一定の職業について持続して真面目に稼動したことがなく、交友関係も不良で、安易な生活態度も、本件の一因をなしていることが認められる。なるほど、少年が主張するように、少年は、現在においては自らの行動について反省し、真面目に働こうとする気持になつてきていることはうかがえるけれども、右に指摘したような諸事情を総合すると、従前の状況が根本的に改善されない限り再非行も心配され、社会内処遇によつては少年の改善矯正を図るには相当の困難が伴うものと予想され、むしろ、この際相当期間然るべき施設に収容し、専門機関による職業訓練、生活指導等を通じ、少年に根本的な自覚と反省を促し、その改善矯正を図り、社会適応能力を養わせる必要があることは否定しがたいものといわなければならない。少年は、短期少年院への送致を主張するが、中等少年院における収容期間は必ずしも一年と定められているわけではなく、矯正教育の成果があがれば、それに対応して早期仮退院その他の措置も期待されないわけではないのであつて、前記のような少年の非行性の程度、性格特性などにかんがみると、少年を特に短期少年院に送致するのが相当であるとは認めがたい。また、少年は、共犯の成人らの処分との不均衡を主張するが、それぞれの犯行態様、共犯者間における主従・加功の程度、前歴、反省状況など諸般の事情を個別的に考慮し、共犯の成人らについては懲役刑の実刑あるいは執行猶予に、また共犯の少年らについても中等少年院送致あるいは児童相談所通告などの各処分ないし措置がとられていることがうかがわれ、少年に対してのみ特に重い処分がなされているわけではないのである。

以上の説示からも明らかなように、少年を中等少年院に送致する旨の決定をした原裁判所の判断は正当であつて、本件抗告は理由がないので、これを棄却することとし、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 原田修 裁判官 大西一夫 龍岡資晃)

参考一 少年作成の抗告申立書

申立書

大人とやつたのに僕だけが罪が重すぎるし二人とも拘置所に入つて一ヶ月で出てきているし、一人の方は、一緒の事件で執行猶予を二回もらつて今は、出て働かずに遊んでいる。

そして僕は、真面目にやろうと思つて家に帰つたのに、なぜこうゆう目になつたのか僕だけが一年間も居なければならないのかそして一人の人は、一回拘置所を出所して一ヶ月もしないうちにまた、拘置所に入りまたダブル執行で出所した、自分のして来た事には悪い事だ、と反省していますが家に帰して下さいとはいいません自分のして来た事には男らしく責任を取つて少年院に行きますが、せめて短期少年院にして下さい頼みます。裁判官は、一年間ほど我慢して手に職をつけたらいいとゆうがなぜ僕が真面目にやろうと思つて家に帰つたのは、早く自動車の免許を取つてトラックの運転者になろうと思つたからである。自分自身がこの仕事に適しているからである。

参考三 処遇勧告書〈省略〉

1.保護者はこれまで相当の熱意と努力を少年の更生とくに何にか特技を身につける方向で重ねてきておる。

そこで、今回の収容を機会に徹底した職業訓練を通じ、特技を習得させるようにしたい旨熱望し、そのため収容期間が長期間に及ぶこともやむを得ないとしている。

なお職業指導と共に徹底した生活訓練をも望んでおり、少年が真に反省し特技習得に努力すると共に社会的に恥かしくない智徳を備えてくれるならば、家族の転宅をも決定している。

2.院内処遇期間中の反則行為その他については厳しい処遇を望み、そのための出院期間の延長も止むを得ない。

3.仮出院申請前に保護者と少年の将来の引受け就職、その他について協議をされると同時に、保護観察所を通じての環境等の調整も必要とされる。

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